酉の市のじざえもんさん
酉の市で出会った新しい居候 じざえもんさん。
難しい言葉を話し、当初は茶色の着物を着ていたのですが
当店に来て翌日には神主の着物に着替えていました。
そんなある日–。
古い付き合いの友人が訪ねてきました。
「お久しぶりですね」
色々と話をするうちに、友人はこんなことを言いだしました。
「私は死んだ方が良いのです」
すると、熊手の方から、じざえもんさんの声がして来ました。
『今、なんと言われた』
いつもは自分の用事をせっせとこなす
じざえもんさんですが、突然友人の言葉に反応したのでした。
「じざえもん殿。あなたの言葉はこの方には分かりません」
『今、なんと言われたのか』
「あなたの声は私にしか聞こえないのです」
『私は、生きたかった』
『私が狼の群れに襲われた時、私にはまだやることがあるのですと、心から神様に救いを求めた。
やり残したことがある。悔いがある。
それで一心にお祈りした。
しかし、とうとう喉を食いちぎられた時、悲しくて、悔しくて、思いが溢れて涙が出た。
私は心から生きたかった。
それでも私の前で死を口にするのか。
歩いてゆきなされ。歩いてゆきなされ…』
翌日–。
「じざえもん殿。辛かったのですか」
『生きたかったのです。
狼に襲われた時、神も仏も無いと恨みました。
しかし死んだ後になって、これも運命なのかもしれないと思うようになり
生きることは辛い、それならば神になろうとアメノヒワシノミコト様に修行を願い出たのです』
「ええ」
『歩くという字をご存知か?』
「ええ」
『止まることを少なくすると書きます。
わずかでも止まらずに前へ進むということなのです。
歩いてゆきなされ』
「あなたが行う神の修行とはなんです?」
『神にとって一番大事なことは
心を無にすること、欲をなくすことです。
それができて次の段階になります』
「次とは?」
『人のことを考え、己を律することですが
その次の修行の内容はまだ頂いておりません』
「今はもう、神を信じる人間が少なくなってしまいました。
アマテラス様もウカノミタマノカミ様も
人間はもう我々を信じていないとおっしゃっています。
昔なら治らなかった病も、今は治すことができますし
天候によって飢えがもたらされることもないのです」
『今に限ったことではありません。
昔から、そうでした。
神主でさえ、二通りいました。
心から神を信じている者と、金のために信じているふりをする者。
人々は自身にとって良いことがあれば、神をあがめました。
例えば、日照りや豊作です。
神に祈り、それが叶えば神を信じ、そうでなければ信じません。
人は証を見せねば、信じないのです』
「あかしというのは?」
『奇跡です』
「奇跡?」
『たとえば、宙に浮いてみせたり、雨を降らせたり
人智を超えたものです。それならば信じるでしょう』
「ええ」
そろそろ次の酉の市がやってきます。
1年間、毎日、黙々と何かしらやっていたじざえもんさんも
また居なくなってしまいます。
一抹の淋しさを感じつつも
次にやってくる新しい神の候補を想像していました。
年始にお届けしました熊手やお飾りは
お近くの神社にお返しいただいても結構ですし、
もしもわからないようでしたら
以下の住所までお送りいただけましたら幸いです。
送料はご負担いただくことになってしまうのですが
お送りいただいた方には1000ポイントを進呈させて頂きたいと思います。
〒370-3502
群馬県北群馬郡榛東村山子田南野2546-30
セラピーストーン