宇迦之御魂神のお言葉
「狐殿。
ウカノミタマノカミ様に
遣いをお願いしたいのです」
『はい』
「今こそ…。
伏見へ行く必要があるのではないでしょうか」
『我ら三柱が遣いに出ます。
下から2番目の位の狐を
留守として置いてゆきます』
「ええ」
「ウカノミタマノカミ様は菌類を司る神であられるから
行く必要があるように感じたのです。
…でも、どうしてなのか、何のために行くのか
今は分からなくなりつつあります」
「しかし、このような時に行かないで
一体何を伝えられるというのでしょうか。
考える必要はないと思うのです」
「惜しいのは時間です。
伝えきれていないことが沢山あることです。
人の一生は限られています」
車を走らせておよそ6時間後
京都に到着しました。
この日は夜になってしまったので、
伏見稲荷へは翌日の朝行くことにいたしました。
翌日
伏見稲荷大社はいつもよりも静かに感じられました。
伏見稲荷大社の最初の鳥居の右の柱に
当店の式神の狐が立っていました。
上から2番目の位の狐です。
『お待ちしておりました』
「はい。
ウカノミタマノカミ様はご機嫌いかがですか?」
『姫様は大狐様がお迎えにあがっております』
※私の式神である一番上の位の七つ白狐(大狐)が
山の上におられるウカノミタマノカミ様を背中に乗せて降りてくる
「はい」
最初の鳥居をくぐって、楼門に鎮座する右大臣には、
ここを建立したハタイログの魂が時々宿ることがあります。
その時の顔は、まるで生きているように血色がよく、
今にも首を振って喋り出しそうなのですが、
この日の右大臣には何も感じられませんでした。
楼門をくぐり、本殿を通った先の提灯をはさんで
右側に七つ白狐(大狐)が、そして左側に
ウカノミタマノカミ様が降り立ちました。
「お久しぶりでございます。
お変わりありませんか?
人がおりますので、こちらの木の陰の方で
お話をいたしましょう」
私は人目を避けるために、
端の方へ移動しました。
「お久しぶりでございます。
ウカノミタマノカミ様」
ウカノミタマノカミ様は以前と違った髪型や服を着ていらっしゃいました。
古の人が奉納してくれた黒曜石を胸に飾り、
ここが出来てすぐの頃に奉納された滑石でできた髪飾りをつけておられます。
耳飾りは七色に輝く貝を削ったものということでした。
「お変わりございませんか?」
『人が居なくなり、淋しゅうなったけれど、
大陸(海外)の者がおらんので
悪さをする者も居なくなった』
「悪さでございますか?」
『大陸の者が魔物をつれてくる。
そのため、尾白(おじろ)※も
頻繁にここへ来ていた。
守らせるためだ』
※当店の式神の七つ白狐(大狐)
「はい」
「私はなぜ、ここへきたのでしょう」
『えやみ(流行病)のことについて聞きたいのではないのか?』
「…はい。
新しく流行っている
この病について伺いに参りました」
『死病のことじゃな』
「はい。
ウカノミタマノカミ様は
菌類の病を司る神であられるので」
『菌だけではない。
病全てを引き受けるのが我であり、
そのようにして生まれた。
天から授かった役目だ』
「はい。
この病について教えてください。
これがかつて流行したことはございますか?」
『この国でこの死病が流行ったことはない』
「ではこの病はどこからきたものでございますか?」
『えやみは、古えより
ほうそう、ましん、すいとう他、様々あるが、
今のえやみは大陸から入り込むものなり。
これについては、この下界にある全てに付随する病の元なり。
自然のもの、木や動物にあるものだ。
これらは昔、人間が触れてはいなかった。
ここには入ってはいけないという森があった。禁じられた場所があった。
それに触れ合ったりしなかったから、うつることがなかったのだ』
※流行病は昔から、天然痘やはしか、水ぼうそう他、色々なものがあるが
この流行病は海外から入ったものだ。
この流行病はもともと木や動物などに存在していたもので
こういったものを昔の人間は触れないようにしていた。
立ち入ってはならない場所やものとして扱っていたのだ。
だからうつることがなかった。
「それではこの病は今までの歴史の中で、
何の病に似ておられますか?」
『黒死病に広まりかたが似ておる』
※広まり方がペストに似ている
「それはいつでございますか?」
『随分昔よのう。千年も前かのう。大陸(中国)で。
漢の時、そのあとは唐の時。
一番広まったのは明の時。
その黒死病も大陸に東より伝わったもの』
※随分昔になる。一千年くらい前ではないだろうか。
中国で、漢の時代の時にはじまり、そのあとの唐の時代に、
そして一番広まったのは明の時代の時だった。
そのペストも欧州から中国に伝わったのだ。
「この病にはどのように対抗すればよいでしょうか」
『食べ物だ。古よりある食べ物。
豆。青魚。味噌、大陸から伝わりし納豆、
なんきん(かぼちゃ)、酒、などがよい。
この菌は太陽の熱に弱い。
人々は常に浄化を心がけるように。
光にかざして手を浄化しなさい』
「はい。
そのように伝えます」
『伊勢に行くのであろう。
天照様に世を照らして下さるように願うとりますと
お伝えくだされ』
「…承知しました。
最後に…、人々に、お言葉をください。
もう…。集中力が続かないようです。
あなたのお言葉が必要です」
『慌てるな。
惑わされるな。
心を強く持て。
人を信じよ。
他人を蹴落とすな。
人として正しく生きろ。
人としての生き方がある。
そなたらは獣ではない。
魔物ではない。
人だという事を心にとめおかれよ。』
国津神の宇迦之御魂神は地上の人間の病を管轄しておられ
そして天津神である天照大神は国津神と人間を含む大局を観ています。
ここからおよそ150Km
そこに天照大神がお戻りです。