喪中のお正月の過ごし方
師走になったので
当店は伊勢に最後の挨拶に向かいました。
「今日はゆっくり行くことにしよう」
この日、当店は夜に到着するつもりで
ゆっくりと車を走らせることにしました。
最近は誰かから声をかけられることが少なくなりまして
自分から向かうことが多くなっていました。
神々の長い歴史の中で、人の疫病は繰り返されており
そんな時、どのようにすれば良いかは、彼らの方がずっとよく知っていて
気を遣ってくださるのでした。
各地の神社の神によれば、かなりの数の人が流行病について
頼み事をするのだそうです。
いつだったか、牛嶋神社に行った時もそうでした。
まだこの病の正体がはっきりとわからなかったころ
牛嶋神社のジカク殿は留守にされていて
留守を預かるチバ殿がおっしゃるには
『ウカノミタマノカミの所へ、この疫病のことを聞きに行っている』
ということでした。
たくさんの人がこの病について聞いてくるのだそうです。
しかし、新しい流行病のために正体がわからず
ジカク殿は、病を司どる神でもある
ウカノミタマノカミに詳細を聞きに行っているということでした。
あらゆる神は全てをお見通しなのだと人々は思いがちです。
けれど実際には、それぞれの役割があって
序列があって、情報量も違います。
神にも分からないことがある。ということを
きっと人は“分からない”と思うのです。
昔から、ずっとそうだったのでしょうから
知っている人が居ても良さそうなものなのに
どうして、一体いつから、消えてしまったのだろうと
そんなことを、ぐるぐると考えながら
およそ7時間かけて伊勢に到着しました。
いつもは車の中で眠るのですが
今回は最初から宿をとりました。
誰かが挨拶にやってくるだろうから
きっと起こされるのですが、それでもベッドの上なら
少しでも眠れると思いました。
朝の3時ごろ、何かの気配がして、ふっと目が覚めました。
「ん…」
「カザキ殿…」
『お疲れですね』
「え?ああ…」
そういえば、皆様からいただいた質問を
枕元に用意していたことを思い出しました。
「喪中の時、正月をどのように
過ごせば良いのかを教えてください」
『亡くなったのが、誰なのかにもよります』
「そうですか」
『これから話すことは神道においての話です。
人が決めたことゆえ、人の世に住む限り
その慣わしに従ったほうがよいとは思います。
人の心はそれによって左右されるためです。
我ら神にしては、その限りにあらず』
「ええ」
『親兄弟なら12ヶ月、祖父母なら6ヶ月は喪に服すこと。
正月かざり、鏡餅はひかえること。
神道においては、死は穢れたものとされておるので
けがれを祝うと言う意味の正月飾りは控えること。
喪に服すあいだは、神棚封じをする事。
榊も供物もあげず、もし神棚に扉がある場合は
家族の誰々が亡くなった事と、理由を述べ閉めること。
扉をしめ、真ん中に白い半紙を貼ること。
半紙は糊か、紙の粘着質のものなどで貼ること。
神棚でなく、しめ縄などの場合は、その縄の上から貼ること。
それによって歳神様もわかり、その年は訪れない。
挨拶の便りなどは、七日過ぎに出すこと。
その便りも、あらたまの挨拶ではなく、名目を寒中見舞いなどにかえること。
お子たちが楽しみにしておる、お年玉と呼ばれてるものは、これも名目を変え渡すこと』
「どのようにですか?」
『お勉強代や、お小遣いなど。
お年玉はめでたい時に渡すものなのです。
ただし、これらは神道においての話で、仏教としては、
お寺への墓参りや年始の挨拶は行っても構いません』
これらは正式な神道の考え方のようでした。
以前に狐に聞いた際には、もっとおおらかな答えでしたので
喪に服す期間はその限りではないと思います。
ただ、亡くなった方がいらっしゃるのに年賀状を出してしまったり
また出されてしまうと、人によってはきっと不愉快だと思いますから
人の社会で生きるならば、それに従った方が良いのではないですか?
と、カザキは言っているのでした。
このことはお早くお伝えをしたいと思いまして
最初に掲載をさせていただきました。
他のご質問につきましては
またの機会にご案内をさせていただきたいと思います。
翌朝になって
まだ寒い時間に神社に到着しました。
霜が降りている地面を見つめながら
滑らないようにしようなどと考えていました。
そうして橋を渡ると、カザキが見えました。
「昨日はありがとうございました」
『お役にたちましたら何よりです』
「はい」
「人は色々なことを聞きたがります。
ですが、私はそれに答えることができないでいます。
いえ、正確には明確に答えられますが、
それを知らせて、そしてどう責任を取らせられるでしょうか。
知らない方が良いことも多くあります」
『昔から権力者によって
色々なことが伏せられてきました』
「ええ」
そうしているうちに、アマテラス様がおられる正宮に到着しました。
次回へつづく